ゲーミフィケーション実践の四段階——「完璧な設計」をやめると、続けやすくなる
気づき・設計・実装・統合の四段階を回す改善ループ/朝と夜の実践タイミングで、続けやすさをつくる手順
ゲーミフィケーションを、自分の生活に取り入れてみた。アプリを入れ、ポイントを決め、レベルや経験値の表まで、はりきって作り込んだ。最初の数日は楽しかった。けれど、二週間も経つころには、いつのまにか開かなくなっていた——。
こういう経験をした方は、決して少なくありません。そして多くの場合、その人はこう考えます。「自分は意志が弱い」「ゲーミフィケーションは、自分には合わなかった」と。
この記事は、その結論に、もうひとつの見方を差し出すために書きました。続かなかったのは、たぶん、あなたの意志のせいではありません。いちばんありがちな原因は、「完璧な設計を、最初に一発で当てようとした」ことです。
ゲーミフィケーションを続けやすくするには、手順があります。気づき、設計、実装、統合 ── この四つの段階を、「一度きりの作業」ではなく「ぐるぐると回すループ」として扱う。この四段階のループ、そして、それを毎日いつ回すか ── これが、この記事の地図です。
ゲーミフィケーションそのものの全体像はゲーミフィケーション理論の全体像——人生を冒険に変える「手引き」で扱っています。本記事は、その中の「実践の四段階」を、”続けやすさ”という一点に絞って掘り下げます。
なぜ「完璧な設計」では続かないのか
まず、はっきりさせておきたいことがあります。アプリのポイントやスタンプカードのようなゲーミフィケーションは、何も悪くありません。お店が用意したポイントは、お店が買い物を続けてもらうために設計したもので、その目的のとおりに、きちんと機能しています。
問題は、ゲーミフィケーションそのものではなく、取り入れ方のほうにあります。
続かなかった人の多くは、こういう入り方をしています。やる気が高まった勢いのまま、初日に完璧な仕組みを作り込む。経験値の計算式を細かく決め、ルールをいくつも用意し、初日から完全運用する。
ここに、落とし穴があります。どんなに考え抜いた設計でも、初日の案が自分の生活にぴったり合っている確率は、けっして高くありません。やってみると、必ず「うまくいかない日」が出てきます。記録をつけ忘れる。思ったより時間がかかる。ルールが多すぎて面倒になる。——完璧なつもりで作った設計ほど、この「ほころび」が起きたときに、もろいのです。
なぜなら、完璧な設計には「直す前提」が入っていないからです。完璧なはずのものがほころぶと、人は「もう崩れた」と感じます。そして、翌日にそれを続ける理由が、すっと消えてしまう。これが、ゲーミフィケーションが「続かない」ときの、いちばん多いパターンです。
だとすれば、やるべきことは逆になります。最初から完璧を当てにいかない。そのかわり、続けながら設計を直していける形にしておく。 その具体的な手順が、これから見ていく四段階です。
第一段階・気づき——「続かなくなる理由」を、先に知っておく
最初の段階は、気づきです。
ゲーミフィケーションを始める「前」に、ひとつ、考えておくことがあります。それは——「もし、これが続かなくなるとしたら、原因は何だろう」という問いです。
うまくいく前提で計画を立てるのではなく、つまずく場面を先に想像してみる。続かなくなる理由に、先回りして気づいておく。これが、第一段階です。
とはいえ、「続かない理由を考えてみて」と言われても、なかなか思い浮かばないものです。そこで、よくある「続かなくなる理由」を、いくつか挙げておきます。自分に当てはまりそうなものを、探してみてください。
- 記録を、つけ忘れる。 経験値やクエストの達成を記録する仕組みにしたのに、その記録自体を忘れる。気づくと数日空いていて、再開する気がなくなる。
- やる時間が、確保できない。 「一日の終わりに振り返る」と決めても、夜は疲れていて、その時間が取れない。
- モチベーションが、続かない。 始めた直後の高揚感が薄れると、仕組みを開く気力がなくなる。
- 効果が、見えない。 数値は増えているのに、自分が前に進んでいる実感がなく、だんだん「これに意味があるのか」と思えてくる。
- 生活のリズムに、合っていない。 ゲーミフィケーションの活動を入れた時間帯が、もともと忙しい時間とぶつかっていて、毎日が綱渡りになる。
これらは、あなたの弱さの一覧ではありません。設計で先回りして手を打てる、ただのチェック項目です。第一段階でやるのは、この中から「自分はたぶん、これで止まる」というものを、一つか二つ、見当をつけておくこと。それだけで、じゅうぶんです。
そして、ここがこの四段階のいちばんの肝ですが——この「気づき」は、一回で終わりません。後の段階で、何度も、ここに戻ってきます。
第二段階・設計——原因をカバーする仕組みを、「ほどほどに」作る
続かなくなる理由に見当がついたら、次は設計です。
設計とは、第一段階で見つけた「続かない理由」を、ひとつずつカバーする仕組みを考えること。ここで大事なのは、繰り返しになりますが、完璧を目指さないことです。「たぶん、これで止まる」と思った原因に対して、「とりあえず、こうしておけば防げそうだ」という程度の手を、軽く打っておく。それで、じゅうぶんです。
続かない理由のうち、「やる時間がとれない」「生活のリズムに合わない」といった “いつやるか” にかかわるものは、続けやすさを大きく左右します。この「タイミングの設計」は、内容が多いので、この記事の後半に独立した節を設けて、まとめて扱います。ここでは、それ以外に設計へ入れておきたいことを、ひとつ挙げておきます。
それは、「最低ライン」を決めておくことです。「忙しい日は、これだけやれば一日達成とする」という、ごく小さな一行を決めておく。たとえば「細かい記録は飛ばしても、今日の一行メモだけは書く」。完璧にできた日と、最低ラインだけ守った日。その両方があっていい、と先に決めておくと、仕組みは途切れません。
ただし、ここで作る設計は、まだ「完成版」ではありません。あくまで「一回目の案」です。本当の調整は、次の段階で始まります。
第三段階・実装——やってみる。そして、つまずきを持ち帰る
設計ができたら、実装です。実際に、やってみる段階です。
実装の段階で、ぜひ覚えておいてほしいことが、ひとつあります。それは——やってみて出てきた「うまくいかなかったこと」は、失敗ではない、ということです。
第一段階で、続かない理由を「想像で」洗い出しました。けれど、実際にやってみると、想像していなかったほころびが、必ず出てきます。「朝に置いたけれど、朝はバタバタで無理だった」「ルールを三つにしたけれど、二つでも多かった」。
完璧な設計を目指していると、こうしたほころびは「失敗」に見えます。でも、この四段階では違います。実装で出てきたほころびは、次の『気づき』の材料です。あなたは今、自分専用の設計を調整するための、いちばん大事なデータを手に入れたところなのです。
だから、実装の段階で「うまくいかない日」が出ても、やめないでください。やめるのではなく、持ち帰る。「今日は、ここでつまずいた」と、ひとつの気づきとして拾い上げる。この「持ち帰り」が、のちほど効いてきます。
第四段階・統合——意味を足して、さらに強くする
四つめの段階は、統合です。
ゲーミフィケーションは、最初は軽い気持ちで始めたかもしれません。「なんだか面白そうだから」。あるいは「ダイエットを続けたいから」と、ひとつの目的のために始めたかもしれません。
ところが、気づき・設計・実装を回して続けているうちに、あることに気づきます。「この仕組み、ダイエットだけじゃなくて、仕事の段取りにも使えるんじゃないか」「資格の勉強にも、応用できそうだ」。——ゲーミフィケーションという一つの仕組みが、最初は想定していなかった目標にも使える、と見えてくる。
統合とは、その気づきを、実際に形にする段階です。新しく見つかった応用先も、これまでと同じように——気づき、設計し、実装して、生活に組み込んでいく。そうやって、ゲーミフィケーションを、いくつもの目標に、少しずつ重ねていきます。
ただし、統合は、いつも起きるわけではありません。新しい応用先が見えたときに起きる段階で、しばらく見えてこない時期は、統合は起きません。それでかまいません。統合は「やらなければいけない段階」ではなく、「見えたら、やる段階」です。
統合が起きると、ゲーミフィケーションの意味は、始めたときよりも大きくなっています。ひとつの目的のための小さな道具だったものが、生活のいくつもの場面を動かす仕組みに育っている。そして、意味が大きくなるほど、それを続ける理由も、強くなります。「続ける」ことが、もう、がんばって維持するものではなくなっていく。
そして、ここが大事なところです。統合は、四段階の「終わり」ではありません。新しく組み込んだ目標も、結局は気づき・設計・実装で回していく対象になります。つまり、統合のあとは、また第一段階の「気づき」に戻っていく。四つの段階は、ここで、ひとつの輪になります。
四つの段階を「回す」——続けやすさは、改善のループから生まれる
気づき・設計・実装・統合。この四つの段階は、順番に一度ずつやって終わり、ではありません。さきほど見たとおり、統合のあとは、また気づきに戻ります。気づき → 設計 → 実装 → 統合 → そして、また気づきへ。 四つの段階は、ぐるぐると回る、ひとつのループなのです。
回り方を、もう少し細かく見てみます。実装でつまずきを持ち帰る。それが、新しい気づきになる。その気づきをもとに、設計を少し直す。直した設計で、また実装してみる。すると、また小さなほころびが見える——。この気づき・設計・実装の繰り返しが、続けやすさの正体です。
最初の設計は、たぶん、自分に合っていません。でも、ループを二周、三周と回すうちに、設計はだんだん「自分の生活にだけ、ぴったり合った形」に近づいていきます。一週間も回せば、初日の設計とは、ずいぶん違うものになっているはずです。
四つめの統合は、この輪の中で、少し特別な位置にいます。統合は、毎周起きるわけではありません。 新しい応用先が見えた周には、実装のあとに統合が入り、そこからまた気づきに戻ります。応用先が見えない周は、統合を飛ばして、実装からそのまま気づきに戻る。どちらの回り方でも、輪はちゃんと回り続けます。統合は、ループを回しているうちに「ときどき起きる」段階なのです。
ここで、最初の話に戻ります。続かない人は、「完璧な設計」を初日に当てようとして、外れたときに崩れました。続く人は、初日の設計が外れることを最初から織り込んで、回しながら直していきます。だから、つまずいても崩れない。つまずきは、ループの燃料だからです。
完璧な設計から始めるのではありません。直せる設計から始めて、回しながら、続けやすくしていく。 これが、ゲーミフィケーションを続けるための、いちばん確かなやり方です。
※ ここで説明した四段階の改善ループ(気づき → 設計 → 実装 → 統合)は、続けやすさという一点にしぼって、要点だけを取り出したものです。このループには、もう少し詳しい形があります。「成長マネジメントシステム」の中核にある AIAI(アイアイ) と呼ばれる改善の仕組みがそれで、これを学ぶと、ループの細かな回し方まで、体系立てて理解できるようになります。
いつ回すのか——朝いちばんと、夜寝る前に
四つの段階と、それを回すループを見てきました。ここで、もうひとつ、大切な話をします。この四段階を、毎日「いつ」回すのか、というタイミングの話です。ゲーミフィケーションを実践するうえでは、「何を」やるかと同じくらい、「いつ」やるかが大事だからです。
ここで、フルダイブ・ゲーミフィケーションならではの考え方があります。買い物だけ、勉強だけをゲーム化する——そういう部分的なゲーミフィケーションなら、タイミングは「買い物のとき」「勉強のとき」と、その行動に決まります。けれど、フルダイブ・ゲーミフィケーションが目指すのは、生活全体——日常も、仕事も——を、まるごとゲームにすることです。だから、タイミングは特定の行動に縛られません。問いは、こう変わります。「一日という生活時間ぜんぶをゲーム化するなら、いちばんいい時間帯はいつか」。
これには、もう答えが出ています。朝いちばんと、夜寝る前。眠っている時間をのぞいた、一日の最初と最後です。この二つの時間に、ゲーム化のための小さなイベントを置きます。そして順番は——意外かもしれませんが、夜が先です。
夜は、振り返りの時間です。一日をふり返って、どんな一日だったか、成長や冒険に踏み込めたかを思い出してみる。その行動を、数値にしたり、物語にしたりする。それが、夜にやることです。ふだんから日記をつけている人なら、話は早い。その日記に、ゲーム化の仕組みを少し足すだけです。日記を書いていない人は、スモールステップでいきましょう。いきなり物語にするのは、慣れるまでとても難しいので、最初は、一日を簡単にふり返って行動を記録するだけで、じゅうぶんです。
記録を簡単にするコツは、項目を二つに絞ることです。「成長行動」と「冒険行動」、この二つだけを記録します。成長行動は、一日をふり返って、肉体・知識・経験といった面で成長に踏み込めたか、の記録です。最初は「あり」「なし」だけでもかまいません。慣れてきたら「英語の勉強を30分」「ジムで筋トレを1時間」と中身を書いていく。さらにルーティンになってきたら、「成長行動(ジム・筋トレ)」と項目をつくってしまうと、記録がぐっと楽になります。冒険行動は、いつもの自分とは違う自分と向き合えたことの記録です。「電車で席を譲ってみた」「ランチで新しい店を開拓した」「仕事のプロジェクトで、リーダーに立候補してみた」。——いつものルーティンではない出来事に対して、自分から踏み出した行動を、ひろい上げます。
朝にやることは、もっとシンプルです。まず、昨夜の記録を、かならず読み返す。そして、その内容を受けて、「今日を、どんな一日にしたいか」——どんな成長を、どんな冒険をするか——を、宣言する。やることは、これだけです。これは、主人公として一日を始める、という小さな決意です。昨日までの自分の足あとを見て、今日の自分の向かう先を、自分で決める。宣言した「今日の冒険」を、もう少し具体的なクエストの形にしてみたい人は、問いを立て、クエストに変えるを読んでみてください。
ここで、ひとつ大事なポイントがあります。朝の「読み返し」は、昨日までの記録が手元になければ始まりません。だから、記録は、毎日かならず目に入る場所に置いておくことです。手帳やスケジュール帳に成長・冒険の記録を組み込めれば、予定を見るついでに自然と目に入るので、おすすめです。手帳に組み込みにくければ、記録用紙を別に印刷して手帳にはさむ。携行性の高いミニノートを使う。スマートフォンのメモアプリやToDoアプリを使う。——自分が毎日かならず開くものであれば、何でもかまいません。
そして、夜と朝、この二つのタイミングを続けるために、いちばん大事なことを書きます。ゲーム化のイベントを、「いつもの行動」のすぐ隣に置くことです。新しい習慣を、まっさらな時間に「ゼロからつくる」のは、続きません。そうではなく、すでに毎日かならずやっていることの、すぐ隣にくっつける。夜の振り返りなら、歯を磨いたあと、布団に入る前に。朝の宣言なら、目が覚めて、コーヒーを淹れるときに。——「絶対に抜けない動作」が合図になって、「やるのを思い出す」という手間が、まるごと消えます。
記録する道具も、同じ考え方です。すでに毎日見ている手帳、毎日開くToDoアプリ。その隣に、今日の成長行動・冒険行動を書き添える。新しい道具を増やすのではなく、すでにある道具に「相乗り」させる。記録の仕組みを毎日の道具にうまく落とし込む具体策は、冒険を進める習慣の設計図にくわしく書いています。
思えば、朝いちばんと夜寝る前という時間帯そのものが、「起きる」「寝る」という、絶対に抜けない動作の隣でした。タイミングも、記録も、「いつもの行動の隣」に置く。これが、四段階のループを毎日、無理なく回し続けるための、いちばん確かなやり方です。
続けやすさは、つくれる
最後に、もう一度。
ゲーミフィケーションが続かなかったとしても、それを意志のせいにしないでください。続かなかったのは、たぶん、「完璧な設計を、最初に一発で当てようとした」から。それだけのことです。
やるべきことは、四つです。続かなくなる理由に、先に気づいておく(気づき)。それをカバーする仕組みを、ほどほどに作る(設計)。やってみて、つまずきを持ち帰る(実装)。そして、応用先が見えたら、ほかの目標にも広げる(統合)。この四つを、一度きりで終わらせず、ぐるぐると回しながら、自分に合った形に育てていく。回す時間は、夜と朝です。夜に一日をふり返って記録し、朝にそれを読み返して、今日を宣言する。
完璧な設計は、要りません。要るのは、直しながら続けられる設計と、回し続ける姿勢だけです。続けやすさは、才能ではなく、つくれるもの。今日、その一周目を、始めてみてください。
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