人生を主人公として生きるための技術 フルダイブ・ゲーミフィケーション入門

本稿は、ゲーミフィケーションの理論と実践のうち、個人での実装方法(フルダイブ)を入門として解説する。

🎮 冒険の手引き

人生を主人公として生きるための技術 フルダイブ・ゲーミフィケーション入門

「ゲーミフィケーション」の2つの実装と、主人公性を取り戻す技術

導入

「ゲーミフィケーション」と聞いて、あなたはまず何を思い浮かべますか。

ポイントを集めると景品がもらえる。アプリのバッジが解除されていく。リーダーボードの順位が上がっていく。——多くの方が、この種のイメージを最初に持つはずです。

それらは間違ったイメージではありません。実際、ビジネスや教育や医療の現場で活用されているゲーミフィケーションの多くは、こうした仕掛けで人の行動を促す体系として実装されています。

しかし、本稿でお伝えしたいのは、それとは少し違う種類の話です。個人が、自分の人生という舞台で、ゲーミフィケーションを生活に取り入れる——という使い方には、別の目的と別の道具立てがあります。混ぜずに語る必要があります。

なお、本稿で扱う体系の名前は フルダイブ・ゲーミフィケーション(学術名: ライフ・ゲーミフィケーション) です。

世の中で広く使われている「ゲーミフィケーション」と、本稿の「フルダイブ・ゲーミフィケーション」では、目的そのものが違います。まずはその違いから入りましょう。


「ゲーミフィケーション」という言葉が指す、2つの違う実装

世の中で「ゲーミフィケーション」と呼ばれているものは、実際には少なくとも2種類あります。目的が違い、設計の主体も違い、使う道具も少しずつ違います。混ぜたまま語ると話がぼやけるので、ここで線引きをしておきます。

一般的なゲーミフィケーション——行動を促す仕掛けの体系

ビジネス・教育・医療の現場で広く使われているのが、この意味でのゲーミフィケーションです。目的は、外部に置かれた達成目標に向けて、人の行動を促進することにあります。

具体例は身の回りにたくさんあります。航空会社のマイレージ・プログラム。フィットネスアプリの連続記録バッジ。eラーニングのコース進捗バー。社内勉強会のランキング。健康保険のヘルスポイント。いずれも、ポイント・バッジ・ランキング・進捗バー・レベルアップといった道具を使って、人の行動を続けてもらう仕掛けです。

特徴的なのは、設計する側と利用する側が違うことです。企業や組織が設計し、顧客や社員が利用する。設計者は明確な達成目標(継続率の改善、エンゲージメントの向上、学習完走率の上昇)を持っており、利用者はその仕掛けの中で動きます。これは正しい使い方であり、実装次第で大きな効果を生む有効な手法です。本稿は、この意味でのゲーミフィケーションを否定するものではありません。

フルダイブ・ゲーミフィケーション——主人公性を取り戻す思想と技術

一方、本稿で扱う フルダイブ・ゲーミフィケーション は、目的そのものが違います。外部の達成目標に向かって人を動かす仕掛けではなく、自分の人生を、自分が主人公として、自分の意志で生き抜くための思想と技術です。

道具も少し違います。ポイント・バッジ・ランキングを使ってもかまいませんが、それらは表層の道具にすぎません。本質的に使うのは、フルダイブを形成する5つの構造——役割・舞台・選択・即時フィードバック・物語——です(次章で詳述します)。

そして決定的に違うのは、設計する側と利用する側が同じだということです。あなたが、あなたのために、あなたの生活に設計し運用する。誰かがあなたに目標を設定してくれるわけではありません。誰かがあなたに報酬を渡してくれるわけでもありません。設計と運用の主体性こそが、フルダイブ・ゲーミフィケーションの背骨です。

対立ではなく、隣り合う実装

両者の違いを一枚で整理しておきます。

一般的なゲーミフィケーションフルダイブ・ゲーミフィケーション
目的外部に置かれた達成目標へ人を動かす自分の人生を主人公として生き抜く
設計主体企業・組織(他者が設計)自分(自分で設計・運用)
利用主体顧客・社員・学習者自分自身
主に使う道具ポイント・バッジ・ランキング・進捗バー5つの構造(役割・舞台・選択・即時フィードバック・物語)
効果が出ている時の指標継続率・完走率・エンゲージメントの向上自分が自分の物語の主人公として動いている感覚

両者は対立する概念ではありません。同じ「ゲームの構造を、非ゲーム的な文脈に持ち込む」という起源を共有しながら、適用場所と目的が違うだけの、隣り合う実装です。一般的なゲーミフィケーションを使いこなしている企業はすばらしい仕事をしていますし、フルダイブ・ゲーミフィケーションを生活に取り入れる個人もまた、すばらしい冒険を始めようとしています。

ここから先は、フルダイブ・ゲーミフィケーションの話に集中します。


フルダイブ・ゲーミフィケーションの本質は「主人公性を取り戻すこと」

ゲームについて、多くの方が一つ誤解をしています。

ゲームの本質は「楽しい」ことではありません。楽しさは結果として生まれますが、それは本質ではない。ゲームの本質は、主人公性の即時提供にあります。

ゲームを起動した瞬間、プレイヤーには三つのものが手渡されます。明確な役割(あなたは勇者です)。明確な舞台(この世界はあなたを必要としています)。明確な目標(魔王を倒してください)。現実世界では何年もかけて手に入れる必要があるこの三つが、ゲームでは0秒で手に入ります。だから人はゲームに夢中になるのです。楽しいから夢中になるのではなく、主人公性を即座に取り戻せるから夢中になる。楽しさはその副産物に過ぎません。

ゲームを分解すると、主人公性を支える五つの構造が見えてきます。これがフルダイブを形成する5つの構造です。

  • 役割の付与 — 何者でもない自分から、勇者・冒険者・経営者になれる
  • 舞台の限定 — マップに境界があり、人生のすべてを一度に引き受けなくてよい
  • 選択の意識化 — 「攻撃する」「逃げる」が常に画面に表示され、選んだ感覚が生まれる
  • 即時のフィードバック — 剣を振れば敵が反応し、レベルが上がれば数字が変わる
  • 物語の継続性 — 過去のプレイの蓄積の上に、今のプレイがある

前章で述べたとおり、ポイント・バッジ・ランキングは一般的なゲーミフィケーションでは中心的な役割を果たしますが、フルダイブ・ゲーミフィケーションでは表層の道具にすぎません。本質は、その先にある5つの構造を、自分のために、自分で組み込んでいくことにあります。


なぜ「個人」が「生活」に取り入れるのか——希少になっていく主人公性

ここでひとつの疑問が浮かぶはずです。一般的なゲーミフィケーションが十分に世の中に出回っているなら、なぜわざわざ自分の生活に「個人版」を組み込む必要があるのか。

答えは、両者が解いている問題が違うからです。

一般的なゲーミフィケーションが解いているのは「外部の達成目標に向けて人にどう動いてもらうか」という問題です。一方、フルダイブ・ゲーミフィケーションが解こうとしているのは、「自分の人生という舞台で、自分が主人公として生きている感覚を、どう取り戻すか」という、まったく別の問題です。

会社が用意したクエストも、アプリが用意したミッションも、サービスが用意したレベルアップも、その効用は否定しません。しかし、それらはあくまで「他者が設計した枠の中での主人公性」です。自分の人生という舞台においては、自分が脚本家であり、主役であり、観客でもある必要があります。

なぜいま、これが重要なのか。背景には、はっきりとした時代の変化があります。

AIと自動化が進化するほど、人は受動的になります。短い動画、無限スクロール、即時通知。私たちの可処分時間の多くは、すでに受動的なエンタメに吸われています。受動的な娯楽は、退屈は紛らわせてくれますが、主人公性は与えてくれません。むしろ、主人公性をさらに失わせる方向に作用します。

つまり、主人公性は希少資源になりつつあるということです。テクノロジーが進化するほど、ぼんやり過ごせる時間は増え、自分の物語の中心に自分が立っている感覚は薄れていきます。自分の人生は誰も設計してくれません。設計するのは自分しかいない。だからこそ、フルダイブ・ゲーミフィケーションを「個人の生活に取り入れる」ことに意味が生まれます。


二層の実装——「行動」と「言葉」、両方を変える

フルダイブ・ゲーミフィケーションは、二つの層で構成されています。

第一層は、行動の層です。 先ほどの五つの構造のうち、自分が組み込めるものを日常に組み込んでいきます。たとえば、朝に「今日の自分はこの物語の主人公として行動する」と宣言する(役割の引き受け)。今日という一日に舞台を限定する(無限の悩みを引き受けない)。今日の重要な選択を3つだけ意識に上げる(選択の意識化)。一日の終わりに、起きた出来事を物語として書き残す(物語の継続性)。どれも数分で済む小さな実装ですが、積み上がると主人公性は確実に戻ってきます。

第二層は、認知の層です。 こちらは見落とされがちですが、実は同じくらい重要な装置です。

私たちが普段使っている言葉には、文化的な重荷が染みついています。「仕事」という言葉は「真面目にやるもの・大変なもの」というイメージを背負わされていて、口にした瞬間にその重さを引き受けてしまう。一方「遊び」という言葉は「楽しい・気軽な」イメージを伴います。しかし、仕事と遊びは性質の違いではなく、取り組み方の違いに過ぎません。楽しく仕事することはできますし、全力で遊べば疲れます。違うのは取り組み方だけです。

そこで、日常で使う言葉を意識的に置き換えていきます。「業務」を「クエスト」に。「成果」を「経験値」に。「肩書き」を「ジョブクラス」に。「目標」を「冒険の目的」に。これは表面的な言い換え遊びではありません。言葉の重荷を解いた状態でなければ、主人公として立てないという認識に基づく、構造的な技法です。

行動の層だけを変えても、言葉が古い重荷を抱えたままだと続きません。逆もまた然りで、言葉だけ変えて行動が伴わないと、ただの言い換えごっこになります。両層が同時に機能して、フルダイブ・ゲーミフィケーションは完全な装置になる——ここがこの実装の核心です。


冒険を楽しむとは、自分の成長を楽しむということ

ここまでで、フルダイブ・ゲーミフィケーションの本質は主人公性を取り戻すことであり、二つの層で実装される、と述べてきました。ここでもう一つ、フルダイブ・ゲーミフィケーションを語る上で外せない重要な要素を加えます。

それは 成長 です。

ゲームを楽しむという経験を分解すると、面白さは大きく 二つの輪 で回っていることに気づきます。

ひとつは、ストーリーとしての冒険を楽しむ輪——どんな街を訪ね、どんな仲間と出会い、どんな試練に挑んだか。物語が前に進んでいく快感。

もうひとつは、自分の成長を楽しむ輪——レベルが上がった、強い装備を手に入れた、新しい呪文を覚えた、ステータス画面の数値が育っていく。自分が強くなっていく快感。

この二つは切り離せません。冒険の物語だけがあって成長がないゲームは退屈ですし、レベルアップの数字だけがあって冒険の物語がないゲームも続きません。両輪が回って、ゲームははじめて「面白い」になります

これは現実の人生でも同じです。フルダイブ・ゲーミフィケーションが主人公性を取り戻す装置だとすれば、その核心には 自分の成長を楽しむ という背景があります。主人公として冒険を楽しむということは、自分の成長を楽しむということと、ほぼ同義なのです。

主人公性を取り戻す第一歩——手帳とカレンダーの書き直し

では、自分の成長にフォーカスを戻すために、具体的に何から始めればいいのか。

私はこれまで、コーチとして多くのビジネスパーソンを指導してきました。そこで一つ、はっきりと気づいたことがあります。

手帳(スケジュール帳)を、自分の幸せのために使っている人に、ほとんど出会ったことがない——ということです。

多くの方が、手帳を「仕事を上手く回すためのツール」として使っています。アポイントメント、締切、ToDo、進捗管理。それ自体は否定しません。手帳は確かにそういう機能を持っています。しかし、よく考えてみると、その手帳を使って結果的に幸せになっているのは——仕事であり、会社でした。自分自身の幸せや成長軸で手帳を使っている人は、ほとんどいなかったのです。

ここで一つ、立ち止まって考えてみてください。

私たちの一日、一年の行動を決めているのは、いったい何でしょうか。多くの方にとって、それはカレンダーであり、手帳(スケジュール帳)です。私たちは、手帳に書かれた予定に従って動き、カレンダーに沿って一日を組み立てています。手帳とカレンダーは、私たちの人生のOS(基本ソフト)のようなものです。

だとすれば——

手帳の1ページ目には、自分の夢や目的を書くべきではないでしょうか。

そして、その夢や目的に向かって、自分はどう成長していくのか。一年単位の到達点、一ヶ月単位の小さなマイルストーン、一週間単位の振り返り、一日単位の主人公クエスト——これらすべてを、仕事を上手く回すためではなく、自分の成長を楽しむために、手帳とカレンダーを書き直していく

これが、主人公性を取り戻す、最も具体的で、最も力のある第一歩です。

道具を変えない限り、生き方は変わりません。私たちが日々もっとも長く向き合っている道具は、手帳とカレンダーです。その1ページ目を書き換えるところから、フルダイブ・ゲーミフィケーションは始まります。


軽く始める3つの入口——手帳のリセットが重ければ、ここから

手帳とカレンダーの書き直しは、大きな一歩です。OSの書き換えに近い作業なので、いきなりそこから始めるのが重い、という方も多いはずです。

そのために、明日から試せる軽い入口を3つご紹介します。全部やる必要はありません。気が向いたひとつから始めてください。

入口A:手帳の1ページ目に「自分のページ」を1枚追加する

前章で書いた「手帳とカレンダー全体を成長軸で書き直す」のがいきなり重ければ、まずはここから始めるのが最も軽い入り口です。

手帳の1ページ目に、自分のための「ページ」を1枚だけ追加します。できれば毎日目に入るところに、自分の夢や目標を書き込みます。手帳にスペースがなければ、紙に書いたものを挟むだけでもかまいません。「しおり」としてイメージ写真や付箋を挟み込んでもいい。形式は問いません。

そこに書くのは、自分の夢、自分の目標、自分が向かっている冒険の方向です。会社の数字でも、誰かに見せるためのスローガンでもありません。あなた自身の冒険の目的を、毎日手帳を開いた最初の1秒で目に入る場所に置く——それだけです。

しかしこれだけで、毎日使う手帳が、仕事を回すツールから、自分の冒険を進めるツールへと変わります。

先ずは、毎日の手帳を「冒険手帳」にしてみる。これが、最も軽くて、最も効くフルダイブ・ゲーミフィケーションの第一歩です。

入口B:振り返りで「物語」を残す(夜3分/日記でもメモアプリでも音声入力でも)

一日の終わりに、3分だけ振り返ります。これは、人生を楽しんでいる記録を残す時間です。難しく考えず、楽しんで書き留めましょう。

「今日は5件の案件を処理した」ではなく、たとえばこんなふうに——

「強敵出現、明後日がタイムリミット、どうなるオレ?」

このくらいライトでかまいません。数値ではなく物語で書くことが、振り返りをゲームに変えます。一日を、明日の自分が読んで楽しめる一行に変える。それだけです。

そしてここからが、もうひと工夫の効くところです。この物語が、手帳のスケジュールやToDoリストと連動していると、振り返りはさらに面白くなります。

たとえば、しばらく経って自分の物語を読み返したとき、「強敵って、何のことだったかな?」と気になったら——手帳のその日のToDoを覗いてみる。すると、「ああ、この仕事のことだったな」と、自分で答え合わせができます。

物語が抽象、ToDoが具体。抽象と具体が往復することで、あなたの一日は、後から何度でも読み返せる冒険の記録になります。入口Aで手帳に夢や目標を書き加え、この入口Bで物語として一日を書き残す——この2つが揃うと、手帳は単なるスケジュール帳ではなく、現在進行形の冒険手帳へと姿を変えていきます。

入口C:ToDoリストの横に「経験値」を書く

3つ目の入口は、入口Bと同じくToDoリストを使います。やり方はシンプル——ToDoの横に、そのタスクの「経験値」を書き込むだけです。

経験値の設定には、大きく2つの考え方があります。

① ルーチン系タスクには低めの経験値を

通常の仕事や日々のルーチンタスクには、低めの経験値を設定します。レベルアップへの貢献度は小さくても、こなしたときの達成感や面白さを感じるために置いておくとよい仕掛けです。

ただし、当たり前にやっていることに経験値を付けるのはおススメしません。たとえば「歯を磨く」のような無意識化された行動には、不要です。一方、自分の中で少し抵抗感を感じるタスクには、設定する価値があります。洗濯、買い物、ちょっと面倒だなと思うようなものに、少しだけ経験値を付けてみる——これが1つ目の使い方です。

② 意味付けができれば、経験値を高くできる

同じタスクでも、別の意味付けを加えると、経験値は跳ね上がります。

たとえば、洗濯が楽になる創意工夫を取り入れた(改善活動)。新しい料理のレパートリーを増やした(学習)。同じ「洗濯」や「料理」というタスクでも、成長に繋がる意味付けができれば、通常の倍以上の経験値を設定してもよいでしょう。

厳密にやる必要はありません。楽しめれば、それで十分です。

運用のコツ:レベルアップ設計の目安

運用上の目安をひとつ。

レベルアップの設計は、まず 1レベル = 1,000経験値 で始めてみるとよいでしょう。そうすると、1タスクあたりの経験値は 1〜20 ぐらいが目安になります。もちろん、もっと派手にしたい方は1タスク100〜2,000、レベルアップを10,000経験値、というスケールでもかまいません。この辺りは、やりながら自分なりに調整していけばよいものです。

ToDoリストの形式と、経験値の記録のコツ

ToDoリストには、いろいろな形式があります。経験値運用との相性を考えると、一日ごとにそのままToDoが残る形式が扱いやすいでしょう。手書きの手帳、デイリーノート、日付ごとに新規ページを作るメモアプリ——いずれも、その日の経験値が後から見返せる形で残ります。

一方、ひとつのToDoリストをアップデートし続けるタイプ(チェックを入れたら消える・上書きされる)のツールを使っている方は、一日の終わりにスクリーンショットや写真で記録しておくと良いでしょう。物語の振り返り(入口B)と並べて保存しておくと、その日の「冒険ログ」になります。

そして、その日に獲得した経験値の 合計を、手帳に1行だけ書き残します。これがレベル判定の素材になります。

累積経験値をきっちり積み上げて記録するのは、案外面倒です。簡単に続けるなら、レベルアップしたら経験値を0に戻し、また1から積み上げるやり方をおすすめします。RPGでいう「次のレベルまでの経験値」だけを管理する感覚です。記録の手間が大幅に減り、続けやすくなります。

他人の指標ではなく、自分の物語に合う設計を、自分で見つけていく——それが、経験値を自分で定義することの本当の意味です。

なお、この経験値の運用を、画面上の仕組みとして実装したい方には、本サイト内の「冒険者の家」(HP/MP/EXP で自分を観測する仕組み)が参考になります。


3つの入口のどれも、続かなくても問題ありません。続かなかった、という経験そのものが、あなたの物語の一行になります。気が向いたものから、気が向いた粒度で、楽しんで試してみてください。


人生をゲーム化する3つの始め方

① 自分の現在地を Lv(レベル)で表現する

「30歳・年収500万円」を「Lv30・経験値 500万」と読み替えるだけで、自分の現在地が RPG キャラクターのステータスに変わる。これだけで「次のLvに上がるには何をすればいいか」が考えられる状態になる。

② 今日の行動を「クエスト」と呼んでみる

「提案書を書く」を「提案書クエスト」、「英語の勉強」を「英語修行クエスト」と呼び替える。これも単なる言葉遊びだが、不思議と「今日のクエスト」のほうが取り組みたくなる。

③ 1日の終わりに獲得 EXP を書き出す

夜寝る前に「今日のクエスト達成: 提案書クエスト +50 EXP」のように書き出す。1週間続けると、自分が確かに前進していることが視覚化される。

これら3つは、「ゲーミフィケーション」という重い学術用語を学ばずとも、誰でも今夜から始められる「ゲーム化」の入り口です。

主人公性を見失う5つの罠と、150年前から続く文学的原点

最後に、入門編として知っておきたい二つのことを書きます。一つは「主人公性を見失う罠」、もう一つは「この発想の歴史的な根」です。

ここで一つ、大事な前提を共有しておきます。これから挙げる5つの罠は、一般的なゲーミフィケーション(顧客や社員の行動を促す仕掛けとしての施策)としては、機能する場面が多いものです。企業がポイントやランキングで人を動かす——それ自体は正しい設計で、効果も出ます。

しかし、フルダイブ・ゲーミフィケーションとして個人の生活に取り入れる場合は事情が変わります。これらに引き寄せられた瞬間、主人公性が薄れ、冒険の楽しみが半減してしまう——そういう種類の罠です。

フルダイブ・ゲーミフィケーションとして主人公性を保てなくなる場面は、経験上5つあります。

  • 誰かに強制された時 — やらされた瞬間にゲームは仕事に変わります(一般的なゲーミフィケーションは外部から仕掛けて構いませんが、フルダイブの背骨は自発性にあります)
  • 外発的報酬に依存した時 — ポイントそのものが目的になると、自分の物語に沿う動機が後ろに下がっていきます
  • 借り物の物語をなぞった時 — 誰かの成功談を真似しても、それは模倣であって主人公性ではありません
  • 楽しさを忘れて成果を追った時 — 「主人公として生きるべき」が新しい義務になった瞬間、すべてが裏返ります
  • スケールを目指した時 — 影響力を求めて他者の評価に依存し始めると、主人公性は観客性に変わります

この5つの罠を避けるだけで、フルダイブ・ゲーミフィケーションは主人公性を保ったまま、長く、楽しく続きます。

そして——「ゲームの構造を非ゲーム的な文脈に持ち込む」という発想自体は、決して新しいものではありません。

19世紀末、マーク・トウェインは『トム・ソーヤの冒険』第二章で、後にゲーミフィケーション論の核心となる命題を、物語の形で示しました。叔母から罰として塀塗りを命じられたトムは、それを「特権の遊び」として演じてみせる。すると通りがかりの少年たちは、対価を払ってまで塗らせてほしいと懇願し始める——この場面が示すのは、「仕事と遊びは性質の違いではなく、取り組み方の違いに過ぎない」という命題です。

2010年8月から2011年1月にかけては、ゲーミフィケーションが学術用語として定義される(Deterding et al. 2011)前年に、本稿の筆者である私自身も、当時はまだ言語化されていなかった同じ問いを、別の角度から掘っていました。「仕事楽しむHACK研究所」というブログに、17本の記事を書き残しています。そこには、現在のフルダイブ・ゲーミフィケーションの基本構造——肩書きの自己定義、楽しさの主体性、仕事のステージ化、経験値の即時可視化、行動への自己報酬、言語リフレーミング、生産性は作業以外の時間で決まる——が、当時の言葉で素朴に言語化されていました

ゲーミフィケーションを生活に取り入れる人は、世界中に、あらゆる時代にいます。先行実践者と並走しながら、自分の冒険を始めればよい——独占ではなく、市場を耕すように。一般的なゲーミフィケーションも、フルダイブ・ゲーミフィケーションも、150年以上にわたって繰り返し発見されてきた普遍的な発想の、現代におけるそれぞれの実装にすぎません。新しい流行ではなく、思い出し、取り戻すための装置です。


結び——あなたは、あなたの人生の主人公である

ここまで読んでくださって、もし「いろいろ覚えなければならないことが多いな」と感じていたら、その感覚はすぐに手放してください。

主人公として生きることは、義務ではありません。新しい修行でもありません。あなたが本来持っていたものを、思い出し、取り戻していく過程に過ぎません。

2種類のゲーミフィケーションの区別も、5つの構造も、二層の実装も、成長と冒険の二輪も、手帳の書き直しも、冒険手帳化も、5つの罠も、150年の歴史も、すべて忘れてしまってかまいません。覚えておくべきはたった一つだけです。

あなたは、あなたの人生の主人公です。

それを忘れさえしなければ、残りはすべて自然に動き出します。今日の手帳の1ページ目に、自分の夢を書き直すところから、あなたの冒険を、あなた自身が、最高に楽しんでください。


関連リンク


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フルダイブ・ゲーミフィケーション実践家がAIと一緒にゼロからビジネスを積み上げる全記録。
筆者: 岩渕 由博(いわぶち ゆきひろ)
株式会社グロースブリッジ 代表取締役
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