集中力は「環境とルーティーン」で設計する
「今日こそ集中するぞ」と気合いを入れても、気づけばスマホを触っている。
集中が続かないと、つい「自分は意志が弱い」と思ってしまいます。でも、集中は気合いや才能の問題ではありません。集中は、設計できます。
設計の軸は2つです。ひとつは「環境」、もうひとつは「ルーティーン(集中に入る前の決まった動作)」。この記事では、まず集中のテクニックを環境の面から網羅し、その上で、テクニックを実際に起動させる「一つ前の動作」と、環境づくりをその動作に組み込む方法までをお話しします。
まず、「何が集中を乱しているか」を見つける
集中する方法を考えるとき、いちばん最初にやることは「集中力を上げる工夫」ではありません。「何によって集中が乱されているか」を見つけることです。
テレビ、スマホの通知、机の上の書類、開きっぱなしのタブ、視界に入るマンガ、隣の話し声。集中を乱す原因は人それぞれです。ここを特定すると、やることはシンプルになります。乱すものを遠ざければ、集中しやすくなる。 集中は「足す」より「引く」が先なのです。
集中のテクニックを「環境」で網羅する
集中を乱す原因がわかったら、環境を整えていきます。よく知られたものから、あまり語られないものまで、まとめて並べてみます。
視界を絞る。 いちばん簡単なのは、視界から余計なものを消すことです。極端な方法ですが、部屋を少し暗くして、手元だけに必要な明かりを点けると、視界がぐっと限定されます。散らかった物は、ひとつひとつが「こっちを見て」と気を引いてきます。視界に入らなければ、その引っぱりは消えます。
音を選ぶ。 静けさが合う人もいれば、一定の音があったほうが集中できる人もいます。歌詞のある曲はつい口ずさんで気が散るので、インストゥルメンタルや環境音が向いています。大事なのは「この音を流すと、すっと集中に入れる」という自分の一曲を見つけることです。
物理を整える。 よく使うものは手の届く場所に、めったに使わないものは遠くにしまう。机の上に、今やる作業に必要なものだけを置く。これだけで「探す・迷う」という小さなロスが消えて、同じ時間でこなせる量が増えます。
体を整える。 集中は脳のコンディションに左右されます。睡眠が足りていること、軽く体を動かしてあること、ひどい空腹や満腹でないこと。数分の散歩や深呼吸でも、頭の切り替えには効きます。
時間を区切る。 人の集中は長くは続きません。だらだら続けるより、「ここからここまで」と区切ったほうが密度が上がります。タイマーや砂時計で時間を見えるようにすると、区切りがはっきりします。
遮断する。 スマホの通知、メールの受信音、チャットのポップアップ。これらは集中を細切れにします。集中する時間だけは通知を切る、スマホを視界の外に置く。これも立派な環境づくりです。
ここまではすべて「環境からのアプローチ」です。共通しているのは、集中を乱す要因を減らし、集中しやすい状態を下ごしらえしておくという考え方です。
テクニックだけでは、起動しない ―「一つ前の動作」を持つ
ここまでのテクニックは、どれも有効です。ただ、ひとつ足りないものがあります。それは「いつ、どうやって集中モードに入るか」という起動の仕組みです。環境を整えても、肝心の「ここから集中するぞ」という切り替えが毎回バラバラだと、入るまでに時間がかかります。
そこでおすすめしたいのが、集中(ゾーン)に入る「一つ前の動作」を決めておくことです。集中の直前に、毎回同じ動作を置く。その動作が、集中モードへのスイッチになります。
たとえば、2つの作品を同時連載している作家や漫画家は、作品ごとに頭の中を切り替える必要があります。これをスムーズにするひとつの方法が、作品ごとに味や香りを分けておくことです。「この飴を食べたら作品A」「このガムを噛んだら作品B」、香りでもかまいません。決まった刺激と、立ち上げたいモードを結びつけておくのです。場所を変えるのも同じ働きをします。
なぜこれが効くのか。職場に着くと、自然と仕事モードに入れるのはなぜでしょう。それは、その環境と「仕事をする」という動作が、くり返しのなかで一連の感覚として結びついているからです。決まった刺激が、決まった状態を呼び出す。ルーティーンとは、この結びつきを自分で意図的に作っておくことに他なりません。「やる気が出ないと動けない」と感じている人ほど、この起動の仕組みは効きます(→ やる気は「動いた後」に上がる)。
一石二鳥 ― 環境を整える行為を「一つ前の動作」にする
環境づくりとルーティーンは、別々にやってもかまいません。ただ、これから集中ルーティンを新しく作るなら、ひとつおすすめの組み合わせ方があります。
環境を整える行為そのものを「一つ前の動作」にしてしまうのです。こうすると、集中のスイッチを入れるたびに、環境も同時に良くなります。一石二鳥です。
具体的には、こんな形です。
① 一つ前の動作(5分以内・毎回まったく同じ動作):
机・PC・モニタをウェットティッシュで拭く/机の上の配置を整える
↓
② 集中タイム開始:タイマーをセットして「スタート」
↓
③ 集中作業に入る
机やモニタを拭くこの動作が、「これから集中する」という合図になります。同時に、目の前は少しきれいになり、視界の邪魔も減ります。動作がスイッチを兼ね、しかも環境への小さな投資にもなっている。これがこの組み合わせの強みです。
合図にする動作を選ぶコツは、「環境への投資でありながら、毎回同じ形になるシンプルなもの」を選ぶことです。机・PC・モニタを拭く、机の上の配置を整える――これらは結果が一定で、ほかのことに意識が向かないので向いています。
逆に「部屋を片付ける」は、合図には向きません。片付け始めると「あそこも」「これも」と直すべき場所が次々見つかり、かえって気が散ってしまうからです。本格的な整理整頓は、集中の合図とは切り離して、別の時間に、別の取り組みとしてやってください。
そしてもうひとつ、ルーティーンは短く。長くても5分以内です。集中時間を15分と決めているのに、その前のルーティーンに15分かけていては本末転倒。あくまで「合図」であって、それ自体が作業になってはいけません。
そして、②の集中タイムの長さは、自分の過去の経験から決めるのがコツです。「集中は◯分が正解」と一律に決める必要はありません。自分が無理なく入り込めて、しかも途切れない長さを、何度か試して見つけてください。10分でも25分でも、あなたのデータが正解です。こうして決めた合図と時間を、毎日同じように積み重ねていくこと自体が、小さな習慣になります(→ 三日坊主は、意志が弱いからではない)。
それでも集中できないときは ― まず「体の土台」を見直す
ここまでは、環境とルーティーンで集中を設計する話でした。けれど、環境を整えても、どうしても集中できない・すぐ眠くなる、というときは、原因が体のほうにあるかもしれません。テクニック(ソフト)の前に、まず土台(ハード)を疑ってみてください。
意外に多いのが、睡眠時無呼吸症候群です。大きないびきをかく、しっかり寝たはずなのに日中に強い眠気がある、朝起きても疲れが取れない――こうした人は、睡眠中に呼吸が浅くなって睡眠の質が落ち、日中の集中力低下や眠気につながっていることがよくあります。心当たりがあるなら、これは工夫でどうこうする話ではないので、一度医療機関で相談してみてください。
同じくらいよくあるのが、肩こり・首こりです。慢性的なこりや痛みがあると、それ自体がじわじわと気を散らし、頭が働きにくくなります。姿勢を見直す、こまめに首・肩を動かす、ひどい場合は専門家に診てもらう。これも立派な集中対策です。
集中できないのは、意志が弱いからではありません。まず体の土台を整える。その上で、環境とルーティーンを設計する。 この順番が大切です。
集中は「才能」ではなく「設計」
意志の力は、もちろん大切です。ただ、意志だけで毎回ねじ伏せようとすると、消耗します。だから、消耗する部分を設計で支える。これが、この記事で一貫してお伝えしたかったことです。
集中を乱すものを引く(環境)。集中に入る一つ前の動作を置く(ルーティーン)。そして、その動作に環境づくりを組み込む。一度この仕組みを作ってしまえば、あとは毎日くり返すだけです。
そして、くり返せるものは積み上がります。今日うまく集中できた経験は、明日の自分の土台になる。集中の設計は、その日一日を良くするだけでなく、良くなった自分が積み上がっていく仕組みの一部でもあります(→ 成長を見える化し、積み上げる仕組みと考え方)。
気合いを入れ直す前に、まず環境とルーティーンを一度だけ設計してみてください。次に机に向かうときの入りやすさが、きっと変わります。